数学授業で語りつくせなかったシリーズ 1[数学科 山口]

今日は「一般化」について書きます。中学3年生になると三平方の定理

を学びます。直角三角形の斜辺の長さを計算するアレです。またの名を「ピタゴラスの定理」といい、古代ギリシャの大数学者ピタゴラスの名前が冠されていますが、実際はピタゴラス(BC6世紀頃)が見つけたのか定かではなく、さらにずっと昔から知られていたようです。
そんな三平方の定理、いろんな方向に一般化することができます。例えば指数をいじると、フェルマーの大定理の形

になります。自然数 n が3以上のときこの等式を満たす自然数(x, y, z)の組は存在しないというものです。この主張がなれされてから300年以上の時を経て、1995年にイギリスの数学者ワイルズによって証明されました。この式についてこれ以上はそれこそ、ここに書ききれませんので、気になる人は他の文献を漁ってくださいね。
では文字を増やすとどうでしょうか。俗に言う四平方の定理

になります。これは図1のような直角三角錐において、直角を持たない面ABC(斜辺ならぬ斜面?)の面積を、他の3つ面の面積の平方をもって計算できるというもので、三平方の定理の立体版です。因みに、単に四平方の定理というと、整数論の分野のラグランジュの四平方の定理をさすこともあり注意が必要です。ワールドワイドにはこの定理を「ド・グアの定理」と呼びます。この文字を増やす(次元を高くする)発想で、n 次元空間(ドラえもんのポケットよりもっと高次元)でも同じような式が成り立ちます。

  • 図1
    図1(拡大表示)

さて、元の平面の世界にもどります。三平方の定理は直角三角形で成り立つものですが、直角でなくても似た式が成立します。それが高校1年生で勉強する余弦定理

です。この式でを代入すると、なので、三平方の定理の形になり、余弦定理は三平方の定理において角度を一般化したものと考えられます。
このあたりまでは学校や塾で話されることが多いのですが、では次元と角度を一遍に一般化したらどうなるでしょうか。具体的には、図2のように任意の四面体で3つの面の面積が分かるとき、残りの1つの面を計算する、という余弦定理の立体バージョンのような式はあるのでしょうか。

  • 図2
    図2(拡大表示)

これに関しては、なかなか実用性はありませんが

が成立します。ここでは面1と面2のなす角です。普段は平面と平面の角度を計算することは滅多にないように思えます。これがためにこの公式の見た目は余弦定理のようできれいですが実用性に乏しく観賞用にとどまります。証明については大変興味深い方法が「余弦定理の拡張(外部サイト)」に記されていますのでぜひ読んでみてください。(かつて筆者は愚直な方法で試しましたが断念……。成功した人がいたら教えてくださいね。)四面体の問題で三つの面の面積が先に与えられることは稀で、普通は頂点の座標が先に分かる場合が多いでしょう。その場合はこの公式を使うのではなく、

を使うのが自然でしょう。とはいえ、余弦定理の3次元空間版があるという事実は大変興味深いものです。
ここまで来たらさらなる次元(と角度)の一般化をしてみたいものです。四面体の4次元空間版の図形を五胞体と呼びますが、任意の五胞体ではこのような式はあるのでしょうか。興味のある人は高次元幾何学の分野の専門書を手に取って調べてくださいね。
そんな高次元を考えてどうすんだ!?という声が、ここまで読んでくれたごくわずかな読者のみなさんから聞こえてきそうです。しかし、この世界は高次元(10次元ないし11次元)でできているという学説もあるのです。ぜひ、知識の一般化をしてみて、自分の世界を深めてみてください。ではでは!

数学科 山口

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